【地球温暖化問題】大気中の二酸化炭素はどれくらい増加したのか

コラム

地球環境に関するさまざまな問題については、中学生・高校生の皆さんも理科の授業で教わっていると思います。中でも最も一般的によく知られており、かつ最も規模の大きい問題が、「温室効果ガス」による「地球温暖化」問題です。特に近年は、温暖化対策の遅れの問題がニュースを賑わせることも多いですね。

 

しかし、広く知られてはいるものの、「具体的にどんな悪いことがあるのか」となると、「海面が上昇する」とか「北極の氷がとける」くらいで、あまりピンと来ないという人の方が多いのではないでしょうか。

 

その理由の一つには、どのくらいの影響が出るかはっきり分からない部分が大きい、ということがあります。気候変動を正確に予測するのは非常に難しく、その影響の大きさの予測はもっと難しいです。なかなか確定的なことが言えないんですね。

ですが、「大気へのこれまでの人間活動の影響」はかなり正確に分かっていますし、悪影響がどの程度かは正確に分からなくても、「どんな悪影響か」は概ね分かっています。

 

今回の記事の趣旨は、そのつかみどころのない「地球温暖化」を具体的にイメージしてもらおう、というものです。「これまでの人間活動の影響がどのくらいだったのか」が分かれば、なんとなく全体像が見えてくるのではないかと思います。

 

温室効果ってそもそも何?

「温室効果」という現象は理科の授業で習うと思いますが、何が起こっているのかよく分からないという人も多いかもしれません。基本的なことを確認しておきましょう。

全ての物質は、温度が高くなると原子や分子の振動によって「電磁波」と呼ばれる波を周囲に放射します。電磁波は、温度が高いほど波長の短いものが多くなります。

電磁波の分類 波長
X線・ガンマ線 0.01μm以下
紫外線 0.01~0.38μm
可視光線 0.38~0.76μm
赤外線 0.76~100μm
電波 100μm以上

※各電磁波の波長の境界は一定に定まっているわけではなく、場合によって変わります

 

たとえば、ろうそくの炎は中心部分が1400℃ほどあり、「可視光線」と呼ばれる電磁波を出します。これは、人間の眼に感じることができる「光」のことです。一方、私たち人間の体温は36℃ほどで炎より低いため、「可視光線」は放射せず、より波長の長い「赤外線」を放射しています。

私たちの眼は赤外線を感知できないので、人間の体が光っているようには見えませんが、サーモグラフィを使えば人体の赤外線放射の様子がちゃんと分かります。

 

太陽の表面温度は6000℃ほどなので、放射する電磁波は主に「可視光線」になりますが、地球の表面温度は平均で15℃くらいなので、放射するのは主に「赤外線」です。地球は太陽からの光で温められ、赤外線を放射することで熱を宇宙に逃がしています。

地球の大気に含まれる気体の中には、「可視光線」は通過させるが「赤外線」の一部を通過させず吸収してしまうものがあり、これを温室効果ガスと呼んでいます。水蒸気・二酸化炭素・メタン・一酸化二窒素・フロンなどです。これによって赤外線が吸収されると、その分だけ熱が宇宙に逃げず、地球の温度が高くなるわけです。これが温室効果です。

温室効果は、地球の気候にとってなくてはならないものです。温室効果が全くなければ、地球の放射する赤外線が全て宇宙に逃げ、地球の表面温度は平均でマイナス19℃くらいになってしまうからです。

 

二酸化炭素の量はどれくらい増えたのか

現在問題になっている二酸化炭素の増加は、人間が石油・石炭・天然ガスなどの化石燃料を燃やして大気に放出したものが多くを占めます。では実際に、大気中の二酸化炭素はどれくらい増えたのでしょうか。

 

現在の大気中の二酸化炭素の量は約2.2兆トン、大気に占める割合は0.041%です。割合を聞くとかなり少ないように思えるかもしれませんが、200年前にはこれが約1.5兆トン、0.028%でした。産業革命が起こって百数十年ほどで、大気中の二酸化炭素は1.5倍近くになっています

時期 19世紀初頭(産業革命前) 2019年
大気中の二酸化炭素総量 1.5兆トン 2.2兆トン
大気中の二酸化炭素の割合 0.028% 0.041%

 

では、これらは全て人間の排出したものなのでしょうか。

これも推計があります。産業革命から現在までに人間が排出した二酸化炭素量はおよそ1.7兆トン、大気中に増えた二酸化炭素の倍以上です。

なぜそんなことになるのか? それは、森林や海洋に吸収されてきたからです。大気の二酸化炭素濃度が上がると植物の光合成が促進されますし、海水に溶ける量も増えるんですね。

これは地球温暖化の抑制にとっては都合のいい事実ですが、このことは別の問題も引き起こします。海水に二酸化炭素が多く溶けると酸性になり、サンゴなどへの打撃になるからです。

 

昔の地球は、二酸化炭素がもっと多かった

こんな風に見ていくと、人類が出現する以前の地球は二酸化炭素量がもっと少なかったかのように思えるかもしれません。しかし、地球の歴史全体からすると、現在の二酸化炭素濃度はかなり低い方だといえます。

地球が誕生したばかりの40億年前には、二酸化炭素濃度は現在の数十万倍もありました。これだけ二酸化炭素があれば、地球から赤外線が全く宇宙に逃げなくなり、ものすごい高温になりそうです。が、そうはなりませんでした。その頃は太陽もまだ誕生したばかりの若い星であり、太陽の発する光の量も今よりずっと少なかったからです。

その後、海洋中の金属イオンに吸収されて沈殿して岩石を形成したり、藻類の出現で光合成により吸収されたりして、地球の二酸化炭素は次第に減少し、一方で太陽は明るさを増していきました。

それでも、1億年前の時点で二酸化炭素は現在の数倍~十倍以上あったといわれています。当時の地球は二酸化炭素の温室効果で、現在より10℃ほど気温が高い状態でした。

当時の地球は、大型の恐竜類が繁栄していた時代です。二酸化炭素濃度が現在よりかなり高くなっても、地球の生物が全滅したりするわけではないことが分かります。

 

温暖化は「誰の」問題なのか

二酸化炭素が増えて気温が上がっても生物が繁栄できるのなら、地球温暖化は何が問題なのか? それはもちろん、人間の生活にとっての問題です。

海面上昇の被害は広く知られていますが、それ以外にも、夏の暑さの苛烈化による健康被害の問題や、台風が大型化することによる被害拡大などが指摘されています。しかし、気温が大幅に上昇した場合、最も被害が大きいのはおそらく農作物です。仮に今、地球の平均気温が10℃も上がれば、イネやコムギなどの主要な穀物の収穫量は激減し、世界中に餓死者があふれるでしょう。

このように、地球温暖化という問題は、あくまで「人間にとっての問題」であるということです。そうである以上、「人間が地球にとって害なのだ」とか「人間が原始的な生活に戻ればよい」というような考え方は無意味です。

人間にとっての問題であるからには、人間社会にとってのさまざまな価値、経済発展や人権といったものを「温暖化阻止のためだ」といってないがしろにするのは「解決」ではありません。よりよい人間社会・よりよい生活とのバランスを取らなければならないのが、地球温暖化問題の難しさだと言えるでしょう。

 

地球温暖化は加速していますが、それでも、今日や明日に大量の死者が出るというような問題であるわけではなく、過剰に不安になったり自棄になったりする必要はありません。でも、正しく知っておくことは大事です。この文章がその一助となれば幸いです。

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